美術館🇯🇵 全国(10/24から順次)
収蔵品を見る値段が上がる。上がらない人も、決まっている
独立行政法人国立美術館が9月、所蔵作品展および上映会の観覧料金の改定を発表した。対象は東京国立近代美術館、国立工芸館、国立西洋美術館、京都国立近代美術館、国立国際美術館、国立映画アーカイブの6館。一般料金は、東京国立近代美術館と国立西洋美術館が500円から1000円へ、国立工芸館は300円から1000円へ、京都国立近代美術館と国立国際美術館は430円から1000円へ、国立映画アーカイブは250円から500円へ。実施日は館ごとに違い、いちばん早い京都国立近代美術館が10月24日(土)、いちばん遅い国立工芸館は2027年6月からになる。理由として発表文は「近年の物価高騰やエネルギー価格の高騰により、展示に係る輸送、看視・警備、造作などの経費等が増加」を挙げた。そのうえで、高校生以下および18歳未満、65歳以上、障がい者手帳を持つ人とその付添者1名の無料措置は、継続すると明記している。今回動くのは、館が自分の収蔵品で組むコレクション展(所蔵作品展。他館から借りた作品で構成する特別展と区別して、館の持ち物そのものを見せる展示をこう呼ぶ)の料金で、話題の大型特別展とは別枠の話になる。
💡 話せるタネ入館料は、その施設が誰に向けて開いているかの表明でもある。輸送も警備も高くなった分を大人が引き受け、18歳未満からは取らない——という線の引き方をしたわけだ。値上げのニュースを見たら、上がった額だけでなく「誰が据え置かれたか」まで読むと、その組織の考えが見えてくる。
デザイン🇯🇵 東京・銀座(きょう9/25開幕)
手のひらに載るライオンは、工場でつくられていた
松屋銀座8階イベントスクエアで、きょう9月25日(金)から「リサ・ラーソン 追悼展 アーティスト・デザイナー・インスピレーションの源」が始まる(〜10月12日(月・祝))。リサ・ラーソン(1931–2024)はスウェーデン南部スモーランド地方の生まれ。陶磁器メーカーのグスタフスベリに20年以上在籍し、その主要デザイナーになった人だ。ライオン、犬、猫——日本でもよく知られた動物のかたちは、工場の生産ラインに乗せることを前提に設計された製品だ。一点ずつ手で仕上げる工芸品とは、生まれ方からして違う。展示は「アーティスト」「デザイナー」「インスピレーションの源」という3つの視点で、日本初公開を含む約250点を並べる。2024年3月、92歳で世を去った作家の仕事を、まとめて見られる機会になる。開場は午前11時から午後8時まで(最終日は午後5時閉場)。初日のきょうと土日祝の午前11時〜午後1時は日時指定制なので、これから向かう人は入場方法を先に確かめたい。入場は一般・大学生2000円、高校生1500円。
💡 話せるタネ「作家の作品」と「工場の製品」は、対立させなくていい。型をつくり、量産の工程に落としてもなお、誰が設計したかははっきり残る。同じものが何万個あっても、リサ・ラーソンの猫はリサ・ラーソンの猫にしか見えない——それが
インダストリアルデザインの強さだ。
工芸🇯🇵 大阪・吹田(きょう9/25開幕)
「誰がつくり、誰が使ったか」が分かる道具だけを集めた
国立民族学博物館で、きょう9月25日(金)から特別展「沙流川に生きる ――サルンクㇽの近代」が始まる(〜12月15日(火))。沙流川は日高山脈に源を発して太平洋に注ぐ北海道の川で、その流域には古くから多くのアイヌ民族が暮らしてきた。流域に暮らす人びとを、アイヌ語で「サルンクㇽ sarunkur」という。この展覧会は方針がはっきりしている——流域で集められた工芸品のうち、作り手・使い手が明らかなものを取り上げ、写真・文書・子孫の言葉と組み合わせて見せるのだ。「アイヌの道具」という大きな括りで並べる展示とは、視点の置き方が違う。誰がどんな暮らしのなかでつくり、使ったのかまで降りていく。関連行事も組まれていて、10月3日(土)には「東京でアイヌ家屋を建てたサルンクㇽ」と題した講演がある。1950年、東京に家を建てた人たちがいたのだ。主催は国立民族学博物館、アイヌ民族文化財団、北海道博物館。開館は午前10時から午後5時まで(入館は午後4時半まで)、休館は毎週水曜。観覧料は一般1200円、大学生600円で、高校生以下は無料だ。
💡 話せるタネ作った人の名前が残っていない道具は、「その民族の文化」としてまとめて語られやすい。けれど本当は、一つひとつに作った人と使った人がいる。
来歴をたどる作業は、集団の話を個人の話に戻す作業でもある。
マンガ🇯🇵 岩手・盛岡(11/8まで)
画面のなかで終わる作業を、美術館はどう展示するか
岩手県立美術館で、企画展「芥見下々『呪術廻戦』展」が開かれている(9月12日(土)〜11月8日(日))。主題はキャラクター人気ではない。公式の説明によれば、この展覧会は「デジタル手法による漫画作品の創作工程を、作者の解説も交えながら一挙公開」するものだ。ストーリー、キャラクター、イラストワークが、それぞれどう組み立てられていったのか——作者自身の言葉を添えてたどる構成になっている。紙とペンで描かれた原画を額に入れて並べる展覧会は数多いが、デジタル作画には、筆圧の跡もインクのにじみも残らない。何を出せば「制作を見せた」ことになるのか。その問いに、工程そのものを開くという答えを出した展示だ。観覧料は当日で一般2000円、高校生・学生1600円。休館は月曜(9月21日・10月12日・11月2日は開館)。この展覧会は2024年の渋谷を皮切りに大阪・福岡・仙台・名古屋と全国をまわってきたもので、岩手のあとは12月25日(金)から新宿住友ビル三角広場で「完結展」が開かれる。
💡 話せるタネ手描きの原画には、その場で手が動いた物証が残る。データにはそれがない。だからデジタル時代の展示は、完成品よりも手前——どう考え、どこを描き直したか——に価値を置くようになる。作品の前段階が見世物になる流れは、これからもっと広がる。
写真・メディア🇯🇵 東京・恵比寿(9/30開幕)
写真を燃やす、テレビの乱れを拾う——5人の組み立て直し
東京都写真美術館で9月30日(水)から、「ふたたびくみたてる 日本の新進作家 vol.23」が始まる(〜2027年1月17日(日)、3階展示室)。「日本の新進作家」は2002年から続く若手紹介のシリーズで、今回が23回目。出品は5人で、手つきがそれぞれ違う。市田小百合は黒板を支持体にしてシルクスクリーンで刷り、苅部太郎はテレビに出るグリッチノイズと生成AIを使う。野村在はポートレイト写真を燃やし、その燃焼を長時間露光で記録する。橋本麦はコマ撮りアニメーション、藤倉麻子は実写映像とCGとAIを組み合わせる。共通するのは、すでにある記憶や素材や技術を汲み取って、新しいイメージへ組み立て直すという態度だ。会期中は橋本による公開制作も行われ、できあがった映像だけでなく、それが生まれていく過程もあわせて見せる。観覧料は一般700円、学生560円、高校生350円。
💡 話せるタネシャッターを切ることだけが写真ではない。燃やす、刷る、壊す、AIに通す——写真を素材として扱いはじめた瞬間に、写真美術館はメディアの実験室に変わる。技術が増えた分だけ、作品への入口も増えている。
建築🌎 メキシコ(10/9 第1回授賞式)
服のブランドが、建築の賞をつくった
イタリアのファッションブランド、ボッテガ・ヴェネタが、メキシコの文化施設ラ・クアドラと組んで国際建築賞「The New Architecture Prize」を創設した。第1回の授賞式は10月9日(金)、会場はそのラ・クアドラで、招待制ながらライブ配信も予定されている。顕彰するのは、既成の考え方に挑み、建築という領域の可能性を広げ、人の暮らしのかたちを変えていく人物だという。着想のもとになったのは、メキシコの建築家ルイス・バラガン(1902–1988)。強い色の壁と水と光を組み合わせた住宅や庭で知られ、1980年にプリツカー賞を受けた。歴代の受賞者を見わたしても、メキシコからの受賞は今もこの1人だけだ。会場のラ・クアドラは、バラガンが1960年代後半に馬術施設として設計した建築で、名高い泉《恋人たちの泉》もここにある。
💡 話せるタネ賞をつくるというのは、その分野に「何を良いとするか」の基準を一本立てる行為だ。服のブランドが建築賞を始めるのは、自分たちがものづくりで大事にしてきた価値観を、建物というもっと大きなスケールで言い直す試みでもある。
今週はここまで。
今週並べた6本には、値段の話が何度も出てきた。高校生の財布を基準に並べ直してみる。国立美術館の収蔵品展と大阪のアイヌ工芸品展は0円、恵比寿の写真美術館は350円、銀座のリサ・ラーソンは1500円、岩手のマンガ展は1600円。同じ「美術館に行く」でも、用意する額はこれだけ違う。そして料金表を読んでいくと、その館が何を守ろうとしているのかが透けて見える。輸送費も警備費も上がるなかで、18歳未満からは取らないと決めた館がある——裏を返せば、いまの自分がいちばん安く見られる年齢にいるということだ。使える権利は、使えるうちに使ったほうがいい。次号もお楽しみに。
編集:東洋美術学校 | study.to-bi.ac.jp ・ 全記事 出典リンク付きの要約です