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TOBI STUDY | 東美スタディ ・ 今週のアートシーン

#9つくり方が、まるごと見える

2026年8月14日号 ・ 素材と手仕事の秋 ・ 3分で読める
用語=用語集で意味を調べる 固有名=外部の出典へ

この週末(8月15・16日)、東京ビッグサイトでコミケ(コミックマーケット108)が開催中。自作を手にした“つくる人”が全国から集まる、日本最大の創作の祭りだ。――でも、創作の現場は会場だけじゃない。この夏から秋、全国の美術館では、“完成した作品”ではなく、その“手前”――下描き、素材そのもの、直しの跡――を見せる展覧会がそろって開いている。プロはどこから描きはじめ、何から色をつくり、どう直して1枚に仕上げるのか。“つくり方”がまるごと見える6つを、3分で。

絵本の原画展🇯🇵 秋田・横手

下描きから完成まで、絵本づくりの“ぜんぶ”が300点

『ネコヅメのよる』『なまえのないねこ』などで知られる絵本作家・町田尚子の原画展 「隙あらば猫」 が、秋田県立近代美術館で開かれている(8月8日〜10月4日)。並ぶのは完成した原画だけでなく、ダミー本(完成前に、本の形で作る試作)やラフスケッチなど、約300点の制作資料。デビュー作から最新作まで、プロがどんな下描きから始め、どう直して1冊にしていくのか――ふだんは見えない“制作の途中”が、まるごと見られる。

💡 話せるタネ完成した絵より、ラフや“直しの跡”のほうが勉強になることがある。プロの「途中」を約300点も見られる機会は、そうそうない。
世界の絵本イラスト🇯🇵 東京・板橋 → 巡回

94カ国の“絵本の描き方”が、一部屋に集まる

イタリアの絵本の見本市から生まれた 「2026 イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」 が、板橋区立美術館で8月16日まで開催中(高校生以下は無料)。そのあと、西宮市大谷記念美術館(8月22日〜)など全国を巡回する。今年は94の国と地域から4,158組が応募し、日本の7人を含む33の国と地域の75組が入選。同じ“子どもの本の絵”でも、国や作家で画材も色づかいもまるで違う。水彩、版画、ミクストメディア(複数の画材・技法を混ぜて描く手法)……描き方の“正解”はひとつじゃないと、並べて見ると分かる。

💡 話せるタネ「絵本の絵」の描き方は、国の数だけある。自分のやり方に迷ったら、世界の“違い”を見にいけばいい。板橋なら今週末まで・高校生は無料。
日本画の回顧展🇯🇵 東京・広尾

101歳まで“色”を追いかけた画家

近代日本画の大家・奥村土牛(おくむらとぎゅう/1889〜1990)の回顧展 「奥村土牛 ―名作でたどる100年のあゆみ―」 が、山種美術館で開かれている(開館60周年記念・8月8日〜10月4日)。代表作《鳴門》《醍醐》など約60点。土牛は、岩絵具(鉱物を砕いてつくる、日本画の絵の具)を何層も塗り重ね、深い色あいを追い求めた。101歳で亡くなるまで筆を執り、それでも「まだまだ初心」と言い続けた画家の、色との一生をたどれる。

💡 話せるタネ100年描いても「まだ初心」。うまくなることと、初心を忘れないことは、両立する。長く続けた人の言葉ほど、重い。
伝統の染織🇯🇵 東京・駒場

王国の“色の決まり”を、手で染めた布で見る

日本民藝館の創設90年を記念した 「琉球王国の染織」 展(8月22日〜11月3日)。琉球王国(いまの沖縄)で育った 紅型(びんがた=型紙と糊で色を防ぎ、鮮やかに染め分ける沖縄の染め)や織物、約50点が並ぶ。王家・尚家ゆかりの品も。手作業で色を一色ずつ重ねてできる文様には、身分や場面ごとの“決まり”があった。色と柄が“意味”を持つ、デザインの原点のような世界だ。

💡 話せるタネ色や柄が“なんとなく”ではなく“意味”で選ばれる。それは、いまのデザインの考え方そのものだ。何百年も前から、色は情報だった。
やきものの技法🇯🇵 東京・南青山

同じ“土”が、国でこんなに変わる

根津美術館の企画展 「やきもの名品紀行 中国・日本・朝鮮半島」(8月15日〜10月12日)は、館蔵の約2,300件のやきものから名品を選りすぐり、3つの部屋で中国・日本・朝鮮半島に分けて見せる。たとえば 染付(そめつけ=白い磁器に青一色で絵付けする技法)は中国で生まれ、日本や朝鮮半島へ渡って、それぞれ別の美意識に育った。同じ技法・同じ素材でも、土地が変われば“美しさ”のかたちが変わる。

💡 話せるタネ同じ技術でも、場所が違えば別の美になる。“どこで・誰と学ぶか”は、自分の作風を静かに左右する。
素材と現代美術🇯🇵 東京・谷中

紙も、石も、“描きすぎない”のも、作品になる

谷中のギャラリー SCAI THE BATHHOUSE で、韓国出身の作家・李禹煥(リ・ウファン)の個展 「Work on Paper / Sculpture」(8月4日〜10月10日)。紙に炭や水彩でひいた線と、石と鉄をただ置き合わせた彫刻「関係項」が並ぶ。李は、戦後日本の もの派(石・鉄・紙など“もの”そのものを主役にした美術の動き)を理論と実践で引っぱった中心人物。描き込むより、素材と余白に語らせる――“つくりすぎない”表現の強さを見せる。

💡 話せるタネ描き込むことだけが表現じゃない。素材そのものや“余白”に語らせる手もある。足し算だけでなく、引き算のデザインだ。
今週はここまで。
コミケの熱気も、静かな美術館の一室も、どちらも“つくる”の現場だ。完成した作品の“手前”――下描き、素材、直しの跡――には、これから絵を描くきみのためのヒントが詰まっている。この秋は、“できあがり”ではなく“つくり方”を見に行こう。次号は火曜の朝に。
編集:東洋美術学校 | study.to-bi.ac.jp ・ 全記事 出典リンク付きの要約です
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